神経内分泌腫瘍に対するRI治療(PRRT)
放射線治療には外照射の他に、体の内部から病変に放射線(主にβ線)を照射する内照射というものがあります。これまでに甲状腺がんや悪性リンパ腫、去勢抵抗性の前立腺癌骨転移に行われてきました。2021年より国内においても神経内分泌腫瘍に対しても保険診療として実施されるようになっています。当院でも2022年3月より開始しています。
この治療は、放射線を出す成分(177Lu)と、腫瘍細胞に選択的にくっつくペプチドを合わせて薬(商品名:ルタテラ)です。この薬を点滴で体に入れると、ソマトスタチン受容体を発現している神経内分泌腫瘍細胞にだけ集まり、放射線の力で腫瘍を内側から治療します。これを「放射性医薬品治療(PRRT)」と呼びます。つまり、腫瘍細胞にソマトスタチン受容体が多く発現していないと効果が期待できないとされています。そのため、事前にソマトスタチン受容体がどの程度腫瘍細胞に発現しているか検査を受けていただきます。
この治療は、腫瘍を小さくしたり、進行を遅らせたりする効果が期待されており、今までの治療で効果が見られなかった方にも新しい選択肢となります。残念ながら完全に病気を消滅させるほどの力は低いようです。体への負担が少なく、治療には短期間の入院が必要ですが、比較的日常生活を続けながら治療できるのも特徴です。
治療は8週間隔で最大4回に分けて行われます。副作用としては、主に吐き気、血液の成分に影響が出る、抜け毛が多くなることなどがありますが、ほとんどの方が重篤になることなく治療を完遂されています。当院の経験上は、嘔気は軽いものを含めると6割くらいの方に出ます。血液成分の不足も多くの方に見受けられますが、これまでに治療の延期や中止、使用する薬の量を減らした方はいません。全員が4回を決められたスケジュールで完遂しています。
当院では投与前日に入院し、投与翌日に退院する2泊3日で実施しています。ルタテラの投与はおおよそ30分で終了しますが、腎臓を守るための他のお薬の投与に4時間、事前に嘔気止めを入れたりと、かなりの時間がかかり、その間ずっと点滴していることになります(下図)。また投与開始から患者さんから少ないながら放射線がでますので、隔離が必要となります。当院では翌朝に体表面から1mのところでの放射線量を測定して問題なければ退院としています。
退院後も放射線がしばらく出ていますので、周囲の方への配慮が必要となります。詳しくは外来で説明を受けてください。
現在、当院では週1名ずつ治療を行っていますが、待機患者さんが多く、紹介いただいてから約6か月ほどお待ちいただくことになります。待機できない患者さんについては他施設での治療をお勧めしています。