東北大学病院 放射線治療科

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膵臓癌定位放射線治療(SRT)

膵臓癌に対する定位放射線治療

膵がんを完全に治すことを目指すための基本的な治療方針は手術しかありません。しかし、膵がんは早期に発見することが難しく、進行も早いために予後が悪いがんの一つでもあります。そのため、診断された時点で他の臓器への転移がある場合や周囲の血管に浸潤している場合だと、手術の適応がない場合も多いです。手術適応がない場合の主な治療方針としては抗がん剤治療が主に行われており、FOLFIRINOX療法(フォルフィリノックス療法)やGnP療法(ゲムシタビン・ナブパクリタキセル療法)などの複数の抗がん剤を併用する治療が用いられています。一方で、原発巣が大きくなると疼痛・黄疸などの症状を来たす事があり、局所制御目的に放射線治療も重要な役割を果たしています。

膵癌の放射線治療は、周囲に胃・十二指腸・腎臓・肝臓などの重要臓器が多く、従来の放射線治療では十分な放射線の線量が入らないことがしばしばありました(図1)。しかし、放射線治療の技術が向上し、正常臓器に当たる放射線の線量を下げ、合併症を減らす事が可能になってきています。このような放射線治療を高精度放射線治療といいます。その中には、強度変調放射線治療(Intensity Modulated Radiation Therapy:IMRT、図1)や定位放射線治療(Stereotactic radiotherapy:SRT)があります。

特にSRT(定位放射線治療)は、比較的小さな腫瘍に対して様々な方向から照射することで、一度に照射する線量を大きくする高精度放射線治療です。正常な組織に当たる放射線量を抑えながら、高線量の放射線を局所に集中させることで、腫瘍の局所制御率を改善し、合併症の軽減を図る事が可能です(図2)。また通常の膵がんに対する放射線治療では1回の照射線量は1.8-2.0Gy(グレイ)で、25-30回の照射回数(約5-6週間程度)が必要で、総線量は50-54Gyで設定されていました。SRTでは1回の照射線量を8-10Gyにして、5回程度(約1-2週間)で治療することができ(総線量40-50Gy)、短期間で治療を終える事が利点となります。また局所への治療効果も従来の照射方法よりも期待されています。現在、SRTは肺がんや肝臓がんなどを中心に日常診療で行われており、膵がんにおいても保険適応となっています。膵がんに対するSRTの報告も年々増えており、重篤な有害事象も少ないとの結果です。当院で膵がん対する高精度放射線治療を行う場合、適応があればSRTを提供いたします集学的治療の一つとしてSRTを行う場合は抗がん剤治療・手術などとうまく組み合わせて治療成績向上につながることが期待されます(外科や内科の先生とも連携をとりながら適切な治療を提供できるよう努めています)。

膵がんに対するSRTでは、より腫瘍に集中的に当てて正常臓器への線量を少なくするために下記の方法を用います。

①MRIリニアックでのSRT

2022年2月に当施設で稼働開始しています(詳細はMRIリニアックの項目をご参照ください)。この治療装置を用いることで、その日の状態に合わせた治療計画をすることが可能です。膵臓がんの放射線治療では腸管の位置が日々変わることが多いため、その日にあった治療計画をリアルタイムのMRI画像を用いて正常臓器への線量を従来の照射方法より確実に下げて正確に照射することができます(図3)。症例によって異なりますが、1回あたり治療時間は60分前後かかります。

②金マーカー留置下でのSRT

呼吸による膵臓がんの動きを追うために膵臓にマーカーを留置して、それを目印に患者さんに定期的に息止めをして頂きながら照射をすることもあります(図3)。この場合は先述したMRIリニアックは用いませんが、通常のリニアックを用いてCT画像で腫瘍の位置・腸管の位置を確認しながら、照射範囲をなるべく最小限にして治療することも可能です。この場合の1回あたりの治療時間は30分程度です(患者さんに適した治療法を提案いたします)。

患者さんによってSRTの適応のある方とない方がいますので、詳細については当科担当医師にご相談ください(主な適応として、明らかな遠隔転移がないこと、胆管や十二指腸に金属ステントを留置していないこと、上腹部への放射線治療歴がないこと、などが挙げられます)。