東北大学病院 放射線診断科

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留学

シカゴ大学短期留学を通じて感じたこと

森 菜緖子

~シカゴ大学短期留学を通じて感じたこと~

 2015年5月から7月までの3ヶ月間、日本放射線科専門医会から助成をいただきまして日米放射線科医留学生として、シカゴ大学放射線科乳腺画像診断部門にお世話になり、無事帰国いたしましたのでご報告させていただきます。

【留学の経緯について】

 私は、東北大学放射線科前教授高橋昭喜先生より、留学助成金の募集があるというお話をいただきました。現在3人(10、8、5歳)の子供の育児真っ最中であり、正直に言うと困惑しました。しかしながら、同時に私のような子持ちの女医にも留学のチャンスを与えてくださる昭喜先生を大変ありがたく思いました。また、これまで東北大学で研究を進めてきたことを更に米国で試してみたい、米国の医療、研究に触れてみたいという気持ちが強く、応募しました。協会から選考していただき、高瀬圭教授のご承諾、ご支援を受けまして、晴れて本年、短期単身留学することができたという次第です。

【留学先と見学内容】

 留学先は、東北大学同門の阿部裕之先生のご高配により、シカゴ大学放射線科乳腺画像診断部門で受け入れていただきました。主に3ヶ月間、乳腺画像診断の研究を行い、患者様の同意がとれた時にMRガイド下生検やステレオガイド下生検を見させていただきました。そのほか、週1回は医学物理士の方々との研究ミーティング、乳腺外科医、病理医との症例ミーティングを見学させていただきました。

【研究の見学を通して感じたこと】

 研究面で感じた日本との違いとしては、放射線部門に物理士の先生がいらっしゃるので、新しいシークエンスや解析方法の開発が臨床の身近なところにある、というところでした。日本では、MR装置のメーカーが開発済みのシークエンスを用いるのが通常と思っていたため、新鮮な驚きでした。同じ部門内で物理士が開発した画像を、臨床医が検証するというのはとても良いシステムだと感じました。また、短い期間中に阿部先生のところには、MRIや超音波の業者の方が新しいアプリケーションや装置の紹介に来ていました。米国では、アイディアが実装され、臨床で試され、うまくいくものは残り、うまくいかないものは淘汰される、というサイクルが早いのだろう、と思いました。日本でもこのような開発する側と使う側とがもっと身近な距離感で一緒に研究を行うシステムが必要なのではないか、と考えました。

【臨床の見学を通して感じたこと】

 診療に関しては、放射線画像診断、手技(生検やマーカー留置)、外科手術、病理診断の流れが日本に比べスムーズで、結果が出るのも早く、治療が開始されるのも早いと感じました。乳腺診療の中でも、放射線科医、外科医、病理医、放射線治療医、腫瘍内科医の役割分担がはっきりとしていて、流れが確立しているため、診療が早いのだと思います。阿部先生は毎日、興味深い画像所見、問題症例などをチェックし、夕方には症例を見せてdiscussionをしてくださいました。じっくり検討した症例の結果が、翌週のカンファランスで提示されるので、勉強のしがいがありました。こういったシステムは、今後日本の医療に取り入れられると良いと思いました。
 また各分野に活躍するカリスマ女性医師がいることに驚きました。外科にはシカゴで有名な女性乳腺外科医の先生がいらっしゃいました。とにかく熱心な先生で、患者さんの特徴を、乳癌の種類や進行度以外に、年齢、体格、性格など逐一覚えていて、その人に最もあった診療を提供してあげよう、という心意気を感じました。見習いたいことだと感じました。

【私が行った研究内容】

 自分の研究としては、dynamic MRIの解析、拡散強調画像の解析を行いました。Dynamic MRIの解析は阿部先生のご指導のもと計測し、統計解析を行いました。解析ソフトもシカゴ大学で独自に開発したものを使用させていただき、最新の画像解析に直に触れられる喜びを感じました。
 拡散強調画像の解析は、私が日本でも継続している研究分野です。日本やヨーロッパからは乳腺拡散強調画像の有用性に関する報告が多々あるのですが、米国放射線学会のBIRADS(Breast Imaging Reporting and Data System)の読影方法にはまだ取り入れられていなく、米国からの拡散強調画像の報告も少ないことを疑問に感じておりました。実際、米国で乳房MRIを見て、測定してみるとこの疑問に対する回答とも思われることを感じることができました。米国人の乳房の大きさが日本人に比べると非常に大きいこと、脂肪性であることです。また大きさ故に、生検時にほとんどの症例で金属クリップが留置されています。これらの因子が、従来法の拡散強調画像では影響しているようで、測定上、有用性が有意差として出にくくなっているということを確認しました。米国で実際に画像を見て、測定しなければわかり得なかったことであり、今後の拡散強調画像の画質改善につなげたいと思っています。

【生活について】

 生活面では新鮮なことが2つありました。一つは、研究に1日時間を使えることです。文献検索、情報収集、測定、統計解析に十分な時間を当ててじっくり研究をすることができることは、私にとって非常にありがたかったです。日本では、臨床と研究、学生教育、そして子育て、これらを同時並行させることにいっぱいいっぱいの生活でした。留学の期間中、「必要な情報を得て、測定して解析する」ことをじっくり集中して行うことができました。解析結果やその考察、こんなことを次にやってみてはどうか、という自分の発想をじっくり上司である阿部先生に聞いていただくことができました。また阿部先生のご支援により(私は非常に英語がpoorなので)シカゴ大学の他の研究者にも自分の意見や発想を述べることができました。本当に楽しく充実した時間でした。
 2つめは、シカゴ大学international houseでの他学部の学生達との交流です。3ヶ月の短期滞在であったため、大学敷地内の寮であるinternational houseに居住しました。外観はお城のような石造りの立派な寮ですが、部屋は机とベッドのみの簡素なもので、シャワーとトイレはフロアで共有でした。キッチンは1階に共有の大きなものが設置されていました。38歳になって大学生時代の合宿気分を再度味わうことになりました。キッチンは、居住者の交流の場で、毎日のように、多国籍の料理を楽しむパーティが開かれていました。キッチンでの会話を通して、International house以外のイベントのお誘いもしていただきました。イタリア人、中国人、エジプト人、日本人の他分野の学生さんとお友達になり、刺激を受けました。寮に住む人たちは、みな国籍も分野も違うけれども、兄弟のように仲が良く、その仲間に入れていただき、大変楽しい時間を過ごしました。

 最後になりましたが、英語が極度にできないのにもかかわらず、単身で飛び込んだ私を受け入れてくださった阿部裕之先生には様々なご支援をいただきました。短い期間でも沢山のことに触れ、学ぶことができたのは阿部先生のおかげです。大変感謝しています。また、心よく留学に送り出し、支援してくださった高橋昭喜前教授、高瀬圭教授をはじめ、医局の先生方に深くお礼を申し上げたいと思います。留守中、一人で3ヶ月、3人の子供の世話になんとか耐えた夫にも感謝したいと思います。今後も皆様のご指導のもと、研究、臨床の場で精進し、医療の改善に貢献できるよう努力致したいと思います。
平成27年10月24日 森菜緒子
シカゴ大学乳腺画像診断部門スタッフの先生方と

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