1.重粒子線がん治療の特長(1)

がんによる死亡が増加している中、がん治療においては、生存率の向上ばかりでなく、生命・生活の質(Quality of Life:QOL)を重視した治療の確立が強く望まれており、切らずに短期間で治すがん治療として、重粒子線治療の普及が重要な課題となってきております。重粒子線がん治療は副作用が少なく、短期間での治療が可能であることから、他の治療と 比較して、QOLが格段に向上するものと期待されています。そのため、小型・普及化した重粒子線がん治療装置の早期設置が強く要望されています。



*重粒子線がん治療法と他の治療法との比較*
区分
重粒子線療法
放射線(X線)
外科療法
化学療法
適応
1) ■早期がんから局所進行がんまで
2) ■耐術不能例
3) ■X線抵抗性のがんや肉腫
1) ■早期がんから局所進行がんまで
2) ■耐術不能例
1) ■ 早期がんから中程度進行がん  
2) ■耐術可能例
1) ■主として遠隔転移のあるがん及び白血病
2) ■手術や放射線と併用
長所
1) ■機能温存が可能
2) ■早期のがんの治療成績は、 外科療法と同等
3) ■ X線より生物効果が高い 
4)■X線より線量分布が良く障害を軽減できる
1) ■機能温存が可能
2) ■早期のがんの治療
■局所の根治性が高い 1) ■転移に対しては唯一の治療法である
2) ■手術や放射線と併用
短所
1) ■高額医療である
2)■重粒子線は胃や小腸など管腔臓器がんには不向き
1) ■抵抗性がんがある
2) ■長期生存例の合併症が懸念される
1)■機能と形態の欠損が大きい
2)■適応に限界がある
1)■全身への影響が大きい
   (副作用が大きい)
2)■単独では根治性が低い

 

 

1.重粒子線がん治療の特長(2)

原子核を加速して、がん病巣に照射して治療する方法を粒子線治療といい、
使用する粒子の種類によって陽子線治療・重粒子線治療などに分けられます。

粒子の大きさ

出典:「がん治療の期待をになって
    HIMAC 重粒子線がん治療装置」
    放射線医学総合研究所をもとに作成

 

1.重粒子線がん治療の特長(3)

@重粒子線は与えられたエネルギー量に応じた深さで止まる性質があり、止まる瞬間に膨大なエネルギーを組織に与えてがんを殺します。従って重粒子線は最も線量集中性が良い(下図参照)。
A生物学的効果がX線やγ線より高い。
BX線やγ線に抵抗性のあるがんにも効果があります。
C治療期間が短くて済みます。


 

 

 

 

 

各種放射線の生体内における線量分布

緑:陽子線
赤:重粒子線

出典:「がん治療の期待をになって
HIMAC 重粒子線がん治療装置」
放射線医学総合研究所


 

 

1.重粒子線がん治療の特長(4)

電荷をもった重粒子(陽子、炭素線など)は、与えられたエネルギー量に応じた深さで止まる性質があり、止まる瞬間に膨大なエネルギーを組織に与え、線量集中性に優れています。


出典:経済産業省ホームページをもとに作成

 

2.治療対象となる疾患

重粒子線がん治療は下記のがん(特に赤字で示したX線難治性のがん)に効果があります。


1.頭頸部腫瘍:
腺癌
、扁平上皮癌、およびその他

2.中枢神経腫瘍:
悪性神経膠腫(神経膠芽腫、Anaplastic astrocytoma, )

3.頭蓋底・傍頸髄腫瘍:
組織型:脊索腫軟骨肉腫髄膜腫

4.非小細胞肺癌:
肺野末梢型、肺門・肺門近接型、
局所進行型

5.肝細胞癌

6.前立腺癌

7.子宮癌:
頸部扁平上皮癌、体部・頸部腺癌

8.膵癌

9.骨・軟部肉腫

10.直腸癌術後再発

11.悪性黒色腫


出典:「がん治療の期待をになって
HIMAC 重粒子線がん治療装置」
放射線医学総合研究所


3.高度先進医療

■重粒子線がん治療には多くの優れた特長があり、またその治療が安定しており、 かつ高い信頼性があるため、高度先進医療として平成15年に承認されています。


高度先進医療
 
炭素線治療
陽子線治療
備考
放射線医学総合研究所
314万円

H16年度 重粒子治療患者数
396名(内 高度先進医療286名)

兵庫県立粒子線医療センター
288万円
288万円
H15年度 治療実績(一般診療)
炭素線23名 陽子線341名
国立がんセンター東病院
288万円
 

 

4.必要な装置(1)

■水平・垂直と水平・45°照射により、正常組織の損傷をより少なくし、より的確にがんを退治します。
重粒子線がん治療装置は、信頼性と安定度が高く、立ち上げが容易な加速器です。 がんの深さに合わせて重粒子線のエネルギーを変化させるシンクロトロンを中心とした重粒子線治療(粒子線)装置の概念図と稼働中の例を次に示します。


出典:「三菱粒子線治療装置」
三菱電機株式会社


4.必要な装置(2)

 

 

 


 

重粒子線治療とは

物質は中性子と陽子からなる原子核と、そのまわりを取り巻く電子によって構成される原子によって形づくられ、私たちの体もこの原子で構成されています。原子の質量の殆どは中心にある原子核に集中し、まわりの電子の質量は原子全体の2000分の1です。“重粒子”という言葉はレプトン(軽粒子)の一種の電子に対するもので、したがって陽子、ヘリウム粒子、炭素-12原子核などが重粒子に含まれます。ここでは重粒子線の典型例として炭素-12の重粒子線について述べます。
がん治療に使用される炭素-12の重粒子線は、中性子6個と陽子6個からなる炭素原子核を光速の72%(1秒間に地球を5回転、エネルギーは5ギガ:50億電子ボルト)の速度まで加速した高エネルギーの荷電粒子の束です。この炭素-12重粒子線を人体に照射すると、高速の炭素-12ビームは電子を蹴飛ばしながら徐々にエネルギーを失い速度を落とし、14センチメートル程度進んでエネルギーが1ギガ電子ボルトになって、生体を形成する原子のまわりを回っている電子(エネルギーは炭素-12重粒子線50万分の1)の速度と同じになって、炭素-12重粒子線と電子の衝突が急激に増加し、炭素-12重粒子線は生体内の細胞を壊しエネルギーを失って止まります。この様子が下図に示されています。

 


図の説明

粒子線やエックス線、ガンマ線などが人体を通過するときに人体に吸収されて臓器などにダメージを与える割合を、人体内の深さを横軸にとって示した図である。エックス線、ガンマ線などは入射したところからダメージを与え続けるが、陽子線や炭素線は体内深部で大きなダメージをあたえる。

       

 



重粒子によるがん治療は、重粒子が、蹴飛ばし細胞を壊す電子の質量よりも2万倍も大きく速度が電子と同じになるときのエネルギーが電子の10万倍も多きい、という原理を使う方法です。このため図に見られるように、癌病巣があるところまでは生体に与えるダメージが小さく、炭素ビームのエネルギーに固有な深さのところで急激なダメージを与えることが可能となり、さらにガン細胞を死滅させた後は極めて少量の影響しか与えないと云うことになります。また、重粒子線は電子に比べて質量が極めて大きいため、電子をはじき飛ばしても自身の方向が変わることなく、照射箇所の“ばやけ“による正常臓器に対する影響を最小限に抑えることができます。

 



重粒子線がん治療装置について

東北重粒子線がん治療研究会は積極的に重粒子がん治療施設建設計画を推進しようとしています。重粒子がん治療の特長を生かし、安全を確保した施設の外観を下記に記載します。はイオン源を示し、ここで炭素-12から電子をはぎ取ってプラスイオンをつくりに示される2台の線型加速器に次々に打ち込み、炭素-12を形成する6個の中性子と6個の陽子合計12個の核子当たり5メガ電子ボルトまで加速します。このような高速の炭素-12ビームが薄い膜を通過すると残っている電子も全部はぎ取られて炭素-12の裸の原子核のビームが得られます。このフル・ストリッピングの炭素-12ビームを輸送系を通して、のシンクロトロン主リングに送ります。シンクロトロンでは一定量のビームの塊を加速空洞で加速し、相対論的効果で質量が増加する炭素-12にあわせて磁場を増加させ、数万回周回し5ギガボルトまで加速された後にビームをシンクロトロンから取り出し、のビーム輸送系を通して照射サイトへ運びます。では炭素線により照射が行われます。ここには、がんの拡がり、深さ方向のがん病巣の変化に応じたビームの形状とエネルギーを調整する照射装置が設置されます。は200メガ電子ボルトのエネルギーを持つ陽子線によるがん治療装置であり、ある平面内で全方向360度の陽子ビーム照射が可能な回転ガントリーです。