ごあいさつ

東北大学大学院医学系研究科
放射線腫瘍学分野
教授 山田 章吾
現在私どもが用いている放射線治療装置はリニアック(LINAC:直線型電子加速装置)と 呼ばれ、1940年代に開発されたもので、それ以前のものに比べて放射線のエネルギーが格段に高く、その結果、放射線による皮膚の合併症をゼロとすることで、放射線治療成績を飛躍的に向上させたものです。このリニアックの最近の進歩は著しく、ミリ単位の精度でがんに高線量を投与することが可能な定位放射線治療により3 cm以下のがんであれば手術に匹敵する成績が得られております。また、照射野内の放射線強度を部分的に変化させるIMRT(強度変調放射線治療)は、従来不可能であった凹型の照射野を含め、自在に三次元照射野を形成することが可能で、障害軽減と同時に線量増加により、頭頸部癌や前立腺癌で顕著な成績向上が得られております。しかし、こうしためざましい治療装置や技術の開発、抗がん剤との併用、懸命の治療にもかかわらず、治癒しない患者さんは存在しますし、また放射線合併症に苦しむ患者さんが存在するのも事実です。
重粒子線治療の歴史は古く、1930年代にはすでに速中性子線治療が行われています。がんに対する効果がリニアック放射線より数倍強い重粒子線を用いることで、がんの根絶が期待されましたが、皮膚など正常組織の合併症が強く、予想された効果は得られませんでした。その後、陽子線や炭素線といった、がん病巣に局所的に作用する重粒子線治療装置の開発により、 がんのみに線量を集中する重粒子線治療を行うことが可能となり、正常組織の合併症は劇的に減少しました。日本では1983年に筑波大学で陽子線治療が始まり、1994年には放射線医学総合研究所で炭素線治療が開始されました。これらの施設で慎重に患者さんが選択され、最適な治療方法が追求され、どの種のがんに重粒子線治療が有効かが決定されてきました。その結果、ほとんど全ての癌に有効であるが、とりわけリニアック放射線に抵抗性の骨肉腫、悪性黒色腫あるいは腺癌などに著名な効果を示すことが判明し、高度先進医療として認可され、一般への普及が促されているところであります。
 重粒子線治療はリニアック放射線に抵抗性のがんにも有効です。また、リニアック放射線では作製できない、癌に限局した線量分布を作成することが可能で、正常組織の合併症を極限まで減らすことが出来ます。さらに、重粒子線治療はリニアック放射線で30回かかる治療回数を数回に減らしても成績に差はなく、患者さんは数回の治療で終わることが出来ます。重粒子線治療と リニアック放射線治療をうまく使い分けることで、「切らずに治すがん治療」に大きく近づくことが出来ます。「東北重粒子線がん治療研究会」は東北地方にこの重粒子線治療を普及すべく設立されたもので、多くの方々のご支援をお願いする次第です。

平成17年11月