1.Proton beam therapy at University of Tsukuba

「筑波大学での陽子線治療


(こちらは、筑波大学の論文を和訳したものです。)


1-3.肝癌
<1-3-1肝細胞がん>

1985年11月から1998年7月の間に、162名(192個のHCC)の患者に対して陽子線治療を行った。動脈塞栓術(TAE)やエタノール注入法(PEI)が行われた例もあるし行われていない例もある。患者は、肝機能異常、複数の腫瘍、手術後の再発、他の病気の併発など様々な理由から、手術は不適当であると考えられた症例である。総線量中央値は29日間以上で72Gy/16分割であった。

162人の患者の生存率は5年で23.5%、137人の患者の166個のHCCの局所制御率は5年で、86.8%であった。肝硬変に合併しておこる肝機能障害の度合いと肝内の腫瘍の数に、患者の生存は大きく左右された。50人の患者は、肝機能障害がほとんどなく孤立性腫瘍の患者の生存率は5年で53.5%であった。急性反応や晩期障害は殆んどみられなかった。

陽子線治療はHCCの患者にとって安全で、十分に耐えられ、繰り返し可能であった。腫瘍の大きさ、肝臓内の腫瘍の位置、不十分な栄養血管、血管への浸潤、肝機能障害、あるいは合併症の有無にかかわらず有効であった。



<1-3-2門脈腫瘍塞栓を伴う肝細胞がん>


門脈腫瘍塞栓によるHCCの治療法には限界があり、議論の余地がある。さらに、予後は非常に不良である。門脈腫瘍塞栓を伴うHCCの治療において陽子線治療が果たす役割を過去に遡り検討することにした。
門脈本幹や重要な枝に腫瘍塞栓を伴う12名のHCC、cT3-4N0M0が陽子線で治療された。患者の年齢は42-80歳(平均62歳)で、腫瘍の最大径は40-110mm(平均60mm)であった。総線量は50-72Gy(平均55Gy)/10-22分割で門脈腫瘍塞栓を含み腫瘍に照射した。

陽子線で治療した全ての腫瘍が、平均観察期間2.3年間(0.3-7.3年間)制御されていた。陽子線治療後0.1年-2.4年の間に12例の内10例に照射されていない部位に腫瘍が出現し、その中の3例には遠隔転移も認めた。その結果、8例ががんで亡くなったが、2例はさらなる治療で救済された。
残る2例は陽子線治療後4.3年と6.4年が経った今、病気の痕跡もなく生存している。門脈腫瘍塞栓を有するHCC患者の無増悪生存率はそれぞれ2年67%、5年で24%であった。平均無増悪生存率は、2.3年であった。grade3もしくはそれ以上の毒性は認めていない。

門脈腫瘍塞栓を有するHCC患者の陽子線治療は妥当で、効果的である。患者の生存率と局所制御率を有意に改善したと考えられる。