陽子は、水素原子から外殻電子をはぎとった粒子である。電磁場で加速され、放射能を有する陽子線となる。
陽子線が光の約60%の速度で体内に入ると、最初は人体にほとんど影響がない。なぜなら、入射速度が高過ぎて、体内を通過する際に原子と相互作用する十分な時間が得られないからである。陽子が体内に深く浸透していくと、そのスピードは徐々に落ちていく。これによって、進路上の原子と作用する十分な時間が得られる。そして最後に、ある一定の深さに到達すると止まる。止まる直前に最大のエネルギーが付与され(ブラッグピークという)、その先の反応はない。プロトンのエネルギーを標的の場所に終端がくるように設定した時、治療効果は最大となり、正常組織に全く影響を与えない。陽子線治療の基本的特徴である。
陽子線治療は、最先端の放射線治療法である。放射線治療と手術は、局所がんの患者に原則として用いられている治療法である。手術や放射線治療と違い、放射線は低浸襲性で臓器の形態や機能を維持することができる。
がん患者を放射線治療する際、がん付近の正常組織も照射される。照射線量がとても高ければ、合併症を引き起こすかもしれないので、ベストな照射方法は、正常組織を照射しないで、がん細胞のみ照射する方法である。
光子(X線やガンマ線)や電子は広く放射線治療に用いられている。これらは、深く体内を突き抜ける性質がある。
陽子線治療の歴史は古く、1940年代まで遡り、基礎研究は、USAから始まり、ヨーロッパでも行われている。2005年の1月までに、世界各地の20施設以上の施設で陽子線治療を受けた患者は46,000人を越えている。陽子線で治療された最も多いがんは、眼の悪性黒色腫である。いくつかの北アメリカやヨーロッパの国々では、この治療はすでに医療保険でカバーされている。その他では、頭蓋底腫瘍や前立腺がんが多い。医療保険の適応となるがんは徐々に増えている。
筑波大では、陽子線治療に専念できる陽子加速器を装備した施設を付属病院に隣接して建設した。2001年9月から治療を開始した。この施設の目的は、たくさんの患者を治療し陽子線治療の優れた結果を得て、臨床的有用性を証明し、革新的な治療技術や治療法を発展させ、この分野に携わる人間を教育し、陽子線治療の実用性を一般社会に納得させることである。
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